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東京家庭裁判所 昭和48年(家イ)133号 審判 1973年5月08日

国籍 イタリア共和国 住所 イタリア共和国ローマ市

申立人 アルベルト・ピー・ポッテニー(仮名)

住所 東京都杉並区

未成年者 多田満郎(仮名)

主文

未成年者多田満郎が申立人の子であることを否認する。

理由

1  申立人は主文と同旨の審判を求め、その原因として次のとおり述べた。

(1)  申立人と未成年者母多田久子(以下単に久子と称する)らは昭和三八年(一九六三年)四月一二日当時留学中のソビエト連邦共和国モスクワ市において同国の方式により婚姻しそれぞれ各当事者の本国の戸籍吏にその旨の届出を了した。その後両名は昭和四一年(一九六六年)ごろにソビエト連邦共和国内において事実上別居するに至り、申立人はその翌年の九月イタリア共和国に帰国し、一方久子も同年二月ごろ日本国に帰国したため、事実上の離婚状態が継続している。

(2)  そこで申立人は、イタリア新離婚法第三条二項六号の定める要件に該当し且つ久子の合意のもとに(一九七二年)昭和四七年一月イタリア共和国トリノ裁判所に離婚訴訟を申立て、現在離婚訴訟係属中である。

(3)  一方多田久子は日本国に帰国後、日本人たる斉田俊邦と知合い、同人との間に昭和四七年(一九七二年)五月一二日相手方を出生し、その事実は昭和四七年一〇月三〇日付書面により申立人に知らされた。

(4)  以上の如く、申立人と多田久子との間には五年以上にわたり、まつたく情交関係がなく、未成年者の実父は前記斉田俊邦であることが、多田久子及び当の斉田俊邦の承認するところとなり、申立人としても、この際未成年者との親子関係を真実に合致させるべきものと希望し、イタリア民法第二三五条、同第二四四条に基づき本申立に及ぶ次第である。

2  本件について昭和四八年三月一六日の期日において当事者間に主文と同旨の審判をうけることについて申立人と相手方特別代理人との間に合意が成立し且つその原因に至る事実について当事者間に争いがないので、当裁判所は多田久子、参考人奥山順一郎を審問し、本件記録中の戸籍謄本、出生証明書、イタリア共和国トリノ地方検事局作成の申立人本人の宣誓供述書、申立人より多田久子への私信等によつて必要な事実を調査したところ、申立人と多田久子との婚姻ならびに昭和四一年(一九六六年)二月事実上別居し、昭和四二年相手方母が日本国に帰国して以後は完全な別居状態となつたこと、多田久子が申立外斉田俊邦と事実上の同居をはじめたこと、多田久子が昭和四七年(一九七二年)五月一二日未成年者を分娩したこと、申立人は未成年者の出生を久子の昭和四七年一〇月三〇日附の書面によつて知つたこと、申立人と未成年者との間には事実上の父子関係の存在しないことを認めることができる。

3(1)  本件は渉外事件であるが、未成年者は久子と共に日本において、肩書住所に居住するものであるから日本の裁判所が裁判権を有し、しかも当裁判所が管轄権を有することは明らかである。

(2)  そこで準拠法について考えると嫡出子否認の問題は子の嫡出決定の問題として法例一七条を適用し、子の出生当時の母の夫の本国法が準拠法となるから、未成年者出生当時の母の夫である申立人の本国法としてイタリア民法を適用すべきこととなる。イタリア民法二三一条によると夫は婚姻中懐胎された子の父であるとされ、同法二三五条一項は出生前三〇〇日から一八〇日が経過する期間において夫が遠出の理由により又はその他の事実によつて妻と同居することが事実上不可能であつた場合には、夫は婚姻中懐胎された子を否認することができ、同二四四条は子の出生の通知から三ヵ月の期間内に否認の訴えを提起することを要すると定められている。

(3)  然して本国法を適用する手続は法廷地の裁判手続によるべきものと解されるところ上記イタリア民法による否認の訴えはわが人事訴訟法二七条の否認の訴と同旨の手続と解せられ、人訴二七条の訴は家事審判法二三条の合意に相当する審判の対象とされているので、家庭裁判所において家事審判法二三条の審判において申立人の本国法の適用により、申立と同旨の審判をなしうるものと判断される。

(4)  然るときは、上記認定の事実ならびに、本件申立が昭和四八年一月一一日なされたことは本件記録上明らかであり、その申立の日時は上記認定の申立人が子の出生を知つたと認められる日より三ヵ月以内であることが認められるので、申立人の本件否認の申立ては理由があると判断される。

4  以上の次第であるから本件申立は相当と認められるので、調停委員沢木敬郎、同井田恵子の意見を聞いて家事審判法第二三条を適用し主文のとおり審判する。

(家事審判官 野田愛子)

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